【4年前に書いた掌編小説】黒切ナヒトと彼岸花の君

気まぐれに過去のフォルダを見てたら出てきた。改めて読んだら割と面白かった(主観)ので何となくブログに乗せてみる。

確かエブリスタの花言葉をモチーフにした小説を書こう! みたいな企画に応募するために書いたんだったと思う。

黒切ナヒトと彼岸花の君

01-「旅情」

「あれは蛇神様の呪いだ。あんたたちも離れには絶対に近付くんじゃないよ!」
 口角から泡を飛ばしながらまくし立てた老婆は、ぴしゃりと音が鳴るほどの強さで扉を閉めた。
 門前払いを食らった黒切(くろぎり)ナヒトは、小さな溜息を吐いて踵を返す。喪服のようなコートが冬の風を受けてはためく。色素の薄い青灰色の瞳が、相棒の少女と依頼主の青年の姿を映した。
「すみません……」
 依頼主の青年――和馬が気弱そうな表情で頭を下げた。
「この辺りの老人たちはこんな感じで、まともに調べようともしないんです」
「離れとやらに案内してくれ」
 ナヒトはぶっきらぼうに言って、早足になる和馬の後ろに続く。
「食べ物は?」
 隣を歩く少女――ハクがこちらを見上げながら聞いてきた。降り積もる雪に溶けてしまいそうな純白の長髪が、冬風を帯びて犬の尻尾のように揺れている。
「ない」
「畑があるってナヒトは言った」
「収穫の時期ならな。今は真冬だ」
 降り積もった雪を踏みしめるたびに軋むような音がした。見渡す限りの平坦な土地は、暖かい時期ならば一面に広がる田園や畑なのだろう。
 戸鄙(こひな)村と呼ばれる山奥の村は、人が暮らす場所というよりは神仙がが住まう秘境といった趣だった。点々とする古い民家に暮らすのはほぼ全員が老人で、唯一の例外は目の前を歩く和馬と名乗った青年だけらしい。しんと静まりかえった空気を揺らすのは、ナヒトたちが雪を踏みしめる音と、山奥から微かに聞こえる川の音のみだ。
「ナヒトさんたちは……探偵なんですか」
 和馬が雪を踏みしめながら聞いてくる。
「似たようなものだ」
「異界払い」
 ハクが下から割り込んだ。
「イカイ……?」
「余計なことを言うな」
 ナヒトが咎めてもハクはどこ吹く風といった調子で、仔犬のような動きであちこちを見渡している。いくら見渡したところで彼女が目的とする食べられるものはどこにも存在しない。
 何か聞きたそうな和馬を視線で黙らせて五分ほど歩くと、村の外れにある一軒の建物に辿り着いた。見るからに寂れた印象で、周りに積もった雪には足跡一つ無かった。
 和馬は入りたくなさそうに玄関からかなり離れた場所で足を止めて、こちらの顔色を伺っている。
「勝手に調べるぞ」
 ナヒトは和馬のことを無視して玄関の引き戸を開けた。
 古い板張りの室内に、八人ほどの老人が横たえられていた。ナヒトは土足のまま近付くと、老人たちの首に順番に触れた。確かな体温と脈が感じられた。しかし生きている者に特有の生気は全く感じられない。
「もうかれこれ半年ほどこんな状態なんです」
 和馬が玄関の外から言った。半年前と言えば初夏の頃だ。
「独自の風習とやらに関連してるのか?」
「ええ……」和馬は言いにくそうに視線を伏せた。「この村は昔から水害が多くて、その……村で一番若い女性を生贄に捧げて、蛇神の怒りを静める、という風習が残っているのです」
「蛇……川か。結果、この村には老人しか残らなかったというわけだ」
「その通りです」
 和馬がその時だけ根深い怒りを目に浮かべた。
「ここに寝かされているのは、戸鄙村の村長の一派です。風習の主導者と言ってもいいです。今年の儀式の後に、ほぼ同時に亡くなりました」
「それ自体は奇怪だが、当然、村の人間は弔おうとしただろう」
「そうなんですが、火葬にしても灰の中から傷一つない状態で見つかるのです。何度やっても同じでした。村の人間は蛇神の呪いだと言って、それ以上関わろうとしません」
「呪い、か。しかし村の人間はというが、お前もだろう」
「それは……」和馬が顔をしかめた。「今回生贄になったのが知ってる奴だったので。それで」
 ナヒトはそれ以上は追求せず、代わりにハクに問いかけた。
「どうだ」
「ここじゃない」
 ハクはぼんやりと天井を見上げている。
「食べていい?」
「まだだ」
 ナヒトは玄関に戻りながら和馬に問いかけた。
「この村で他に異常な場所はあるか。できれば土地に関わるものがいい」
 和馬は少し考えて答えた。
「川縁に神社があるのですが、そこに咲く彼岸花が、今年は枯れませんね」
「……なるほどな。死生が混ざっているのはそれか」
 ナヒトは頷くと、外に出て微かに聞こえる川の音の方を睨んだ。
「案内してくれ」

02-「悲しい思い出」「再会」

 村はずれの山に入り数分歩くと、古い鳥居が現れた。五十メートルも離れていないところを細い川が流れており、川のせせらぎの音が冬の風に乗ってナヒトたちの所まで届いていた。
 鳥居を潜り境内に足を踏み入れると、寒さとは別の纏わり付くような気配があった。ナヒトは先導する和馬に続きながら、境内の様子を注意深く見渡した。ハクは相変わらずの自然体でとことこ歩いている。
「ほら、これです……」
 和馬が境内の端を示した。深紅の彼岸花が雪の中から顔を覗かせていた。季節的にあり得ない紅色は、中央に行くにつれ密度を増し、拝殿の手前で花畑となって咲き誇っている。まるで境内の神気が紅に色付いているような幻想的な風景だった。
「雪の下は石畳のはずなんですが、どうやって生えてきたのか分からないんです」
 和馬は彼岸花の花畑の手前で立ち止まり、雪景色を眺めながら首を捻っている。
「生贄の風習、古い神社」ナヒトは呟く。「生贄になった女が、生前に彼岸花に執着していた、といった話を聞かなかったか」
 和馬は少し目を見開いた。
「ええ……今年犠牲になったのは夏葉という女の子なんですが、その子がこの神社の彼岸花のことがとても気に入ってました。彼岸花は縁起のいい花だと言って」
「縁起が良い? 通説とは違うな」
「花言葉の一つに『再会』があるそうです。だから、この神社は再会の神社だって」
 和馬は顔を伏せた。
「もし自分が居なくなっても、この神社が再会させてくれる。そんなことも言ってました。……俺はこの村で生まれ育ちましたけど、正直、もう付いていけない。あの老人たちがずっと目覚めなければ良いって、本当は思います」
 ナヒトは黙り、じっと彼岸花の群れを見つめた。
 ナヒトの両眼が、淡い青色に色付いていた。
「ナヒトさん……?」
 振り返った和馬が、ナヒトの両目を見てぎょっとした。ナヒトは彼岸花の群れの一点を注視している。
「この村の風習は、確かに時代錯誤で野蛮な伝統だ」
「……ええ」
「だが行動に込められた人の想いは確実に現実世界を歪ませる。だから人は心のどこかで無意味だと知りつつも、信仰や儀式を続けてきた。この村も同じだ。古くからの妄念が、十分に場所に蓄積されている。そこに人が広く信じている花言葉への執着だ。異界となって歪みが定着するのも無理はない」
 ナヒトが彼岸花の群れへ向けて手を伸ばし、指を擦り合わせた。その途端、木々を打ち鳴らしたような澄んだ音が鳴り響いた。
 和馬は呆然と立ち尽くした。彼岸花の群れの中心に一人の少女が忽然と現れていた。彼岸花と溶け合うような紅の和装に、雪の中に浮かび上がる黒絹の髪。表情は氷のように無表情で、瞳は何も映していないように一点を見つめて動かない。和馬が震えた声を出した。
「夏葉……なのか?」
「歪みの拠代となった影だ。形に意味はない。生贄の風習による死生の歪みと、彼岸花の『再会』の具象……さしずめ彼岸花の君といったところか」
 ナヒトは一歩前に出る。
「下がっていろ。俺の後ろから決して離れるな。鳴子で具象化した想生(そうせい)は、形が確かになっただけ影響力が格段にでかい。生きながらに死んでいる亡者となるのは嫌だろう?」
 和馬はナヒトの言っていることの大半が理解できなかったが、肌に伝わる異様な圧迫感への恐怖から、素直にナヒトの後ろに隠れた。
 ナヒトは隣に歩み出たハクに聞いた。
「想核(そうかく)は喰えそうか」
「ダメそう。けっこう分厚い」
「面倒な。ド田舎の風習のくせに年月だけはあるからな。起点となったのが大衆に広く知られる花言葉だったのが余計にタチが悪い」
 ナヒトは顔をしかめる。
「お前に満腹になられると困る。引きずり出すのは俺がやるから、漏れた想生だけ喰え。透眼(とうがん)の維持の他に余計な生力(オド)は使いたくない」
「わかった」
 ハクは頷いて、ナヒトの盾になるように前に立った。
 彼岸花の君がナヒトの顔を見たのと、ナヒトの手が翻ったのは同時だった。

03-「情熱」「あきらめ」

 彼岸花の花弁が舞い上がり、深紅の嵐となって荒れ狂った。生と死を溶け合わせながら迫り来る紅の奔流に、ナヒトは指を三度打ち鳴らした。三層の金色の同心円が雪の上を舐めるように広がり、彼岸花の嵐と激突する。互いの想生が反発し合い、空中に強烈な歪みが生じた。一層、二層と突破され、三層でようやく相殺する。火花のように散った金色の輝きを、ナヒトが放った一節の『楔』が貫いた。流星のように放たれた想印は、しかし彼岸花の花弁に飲み込まれて消え去る。
 ナヒトが呟いた。
「『不変』の三層と相殺して、一節の想印を飲み込むか。大した想念強度だ」
 ナヒトは更に右手を翻して空中に想印を刻む。想生術――想念によって現実世界の法則を歪ませる術法は、『想念強度』と『存在強度』の二つを基礎とする。後者は術者の生力(オド)の総量に依存するが、前者は柏手、結印、詠唱といった儀式的な行動で強度を高められる。
 ナヒトが空中に刻んだ想印の数は二つ。先程よりも強固な『楔』の想生が彼岸花の君へと放たれるが、やはり彼岸花の花弁に触れた瞬間に霧散してしまう。想生同士がぶつかり合えば、より強固な方が相手を飲み込む。所詮一人分の想念しか持ち得ないナヒトでは、正面からでは大衆に広く信じられている花言葉の強度に太刀打ちできない。
 津波のように迫り来る彼岸花の花弁が、ついにナヒトの防御を抜ける。だがナヒトは頓着せずに次の想生術のために想印を結印する。彼岸花の花弁がナヒトに触れる寸前、ハクが割り込んで大きく手を開いた。ほんの一瞬だけ巨大な獣のような気配が生じ、彼岸花の花弁を飲み込んだ。ハクの背後からナヒトが『枯死(こし)』の二節を乗せた『楔』の一節を放った。しかしそれも彼岸花の嵐を突破できない。一瞬は彼岸花の奔流が弱まるのだが、すぐさま元の状態に戻ってゆくのだ。
 ナヒトが舌打ちしながら顔をしかめる。
「厄介な。これでは燃やしても消しても無駄か。生者と――生きている状態と『再会』されてしまえばあらゆる攻撃が無駄になる」
「ナヒト。花びらはわたしたちを狙ってない」
「何?」
「意思を感じる。わたしたちは邪魔だから攻撃されてるだけ」
 ハクの言葉の意味を考える前に、再び花弁の奔流が襲いかかった。これまでに倍する想念の圧力に、ナヒトの瞳が鋭くなる。
「ハク、少し貸せ!」
 ハクが差し出した手を奪うように掴む。直後にナヒトのものとは比較にならないほど巨大な生力が流れ込む。ナヒトは花弁の奔流を見据えながら四度結印し、想生術を発動した。これまでは円形に展開されていた『不変』の想生が、ハクの膨大な生力を用いて球状に広がった。死生の境界を曖昧にする彼岸花の奔流が激突し、轟音を上げながら渦を巻いた。
「和馬! お前とあいつに関係はあるのか!」
「か、関係?」
「恋人でも友人でも、生前に深い関係にあったのかと聞いている!」
 腰を抜かしていた和馬は、ナヒトの問いかけに震えた声を返した。
「妹みたいな奴だったんだ。戸鄙(こひな)村に若い奴は俺と夏葉だけで、だから、生贄になるって分かった後も、この神社で再会できるってあいつは笑ってた」
 和馬は俯く。
「恨み言一つ言わないんだ。だから俺の方がまともじゃいられなくて、結局、ここで会おうって口先だけで約束した。頭がおかしかったのは村の連中だけじゃない。俺も同じだ。だから本当は、本当なら……ここから逃げようって、強引にでも連れて行ければ良かったんだ」
「――なら、今からでもそれを伝えろ」
 ナヒトは和馬の腕を掴み、彼岸花の君へと姿を見せるように横に立たせる。周囲に張り巡らせた『不変』の結界の表面が揺らぎ、風景が歪んで見えた。
「俺の術式に、お前の後悔(おもい)を込めろ。生も死も曖昧になるこの異界の中でも、お前の言葉だけは届く」
 和馬は視線を揺らがせ、彼岸花の君を見た。程なくして和馬の体の震えが止まった。
「……やらせて下さい」
「俺の詠唱に合わせて想いを言葉にしろ。普段通りの口調でいい。――いくぞ」
 ナヒトは前に手をかざし、目を閉じて唇を開く。
『殻人(からびと)の境界よ。いま一度(ひとたび)揺らぎて、汝と汝の影を束ねよ』
 雪の上に漆黒の領域が出現し、ナヒトと和馬を取り囲んだ。二人の影が混じり合い、一つの直線となって固定される。
 和馬は離れた場所に立つ彼岸花の君を見つめた。生きているときとは全く違う氷のような無表情を浮かべる彼女に、和馬は爪が食い込むほどに拳を握りしめた。
『虚ろに揺蕩(たゆた)いし言の葉の鳥よ。五つの口と七つの舌を持つものよ』
「……俺はきっと、怖かったんだ。お前がいなくなるってことをまともに考えられずに、全てが曖昧なまま過ぎていくことを望んだ」
 空中に淡く輝く生力の結晶体が出現し、音もなく浮遊した。影によって繋がった和馬からの想生が、ナヒトを通して結晶体へと流れ込んでゆく。
 彼岸花の君が初めて動いた。何かを求めるようにこちらに手を伸ばし、指先を伸ばす。花弁の圧力が更に増し、結界が悲鳴のような軋みを上げた。
『闇より闇へ心幻(しんげん)を留め、舌の器に注がん。然らば虚空なれど集わず散逸せず、凝として編まれ刃となる』
「なのにお前は俺の口先だけの約束を守ってくれた。謝っても取り消そうとしても遅いのに、もう一度だけチャンスをくれた。だから、今度はちゃんと答えられる」
 生力の結晶体が形を変え、一本の藍色に輝く剣となった。その切っ先が、紅蓮の嵐の中でこちらに手を伸ばす彼岸花の君へと向けられる。
 和馬は二度は間違わないと己に誓うように、意思の籠もった強い瞳で前を見た。
『縁(ゆかり)を辿り』
「お前を逃がせなくて、すまなかった」
 ついに『不変』の結界が砕け散り、無数の黄金の光子となって砕け散る。紅蓮の奔流が三人を飲み込もうと迫る。
 和馬が長い後悔と、それ以前の日々を諦めるように、眼を細めた。
『飛翔せよ!』
「さよならだ」
 藍色の剣が空間を引きちぎるように爆発的に加速し、紅蓮の奔流を貫いた。一切の減速をせずに彼岸花の君の胸へと突き刺さり、長大な藍色の輝きとなって炸裂する。彼岸花の君が大きく仰け反り、鮮血のように『再会』の想念が吹き上がる。その中心に、一際大きい深紅の輝きがあった。
 ハクが地面を舐めるように低い姿勢で疾走し、彼岸花の君へと跳躍した。戒めを解いたかのように巨大な獣の影が現れると、ハクの小さな体と一緒に中心の深紅の輝きへ取り付き、牙を剥き出しにして二度ほど噛みついた。
 息苦しいまでの膨大な想生が一瞬にして消え去った。彼岸花の花弁が大気の爆発を受けたように円形に散り、雪の上にはらはらと落ちては消えて行った。降り続ける深紅の花弁の中で、彼岸花の君は音もなくその場に膝を突いた。
 和馬が駆け寄ろうと数歩前に出て、足を止めた。彼岸花の君が顔を上げ、和馬のことをじっと見つめた。氷のような無表情だった顔に、一瞬だけ年相応の微笑が浮かんだ。何かを囁くように唇が僅かに開かれ、彼岸花の君は雪の中に溶けるように消え去っていった。

04-「独立」

 ナヒトとハクは一晩だけ和馬の家に泊まった。翌日の早朝に外に出ると、朝の冷気によって澄んだ空気が一面に広がり、鈍い陽光が差し込み始めていた。
「ちゃんと亡くなっていましたね」
 和馬は離れの方角を見つめながら言った。生きているとも死んでいるとも言えなかった戸鄙村の老人たちは、彼岸花の君が消え去ったことで正しく息を引き取っていた。戸鄙村全体を覆っていた異界の気配も既になく、人口数十人という閑散とした冬の村の風景が辺りに広がっていた。
「お前はどうする」
 すっかり旅装を整えたナヒトが、一応といった感じで聞いた。
 和馬は少し考えて、確かな口調で答えた。
「亡くなった村長たちを弔ったら、この村を出ます。……でも、年に一度は帰ってきて、夏葉に花をやろうと思います」
「そうか」
「本当にお礼はいいんですか。大したものは持ってませんが、一晩だけ泊めてくれれば良いって、それだけじゃ」
「何度も言ったが無用だ。真冬に野宿をしなくて済んだからありがたいくらいだ。金は貰うところからしっかり貰う」
 ナヒトは清浄な冬の空気が流れる村の風景を見た。
「年月で積み重なった想生は全て祓った。だからお前が何の花を手向けようと自由だ」
「……分かりました」
 頷いた和馬の横を、ハクが小走りで通り抜けてゆく。
「和馬、ありがとう。ご飯おいしかった」
「そ、そう……かな。保存食だったんだけど」
「はごたえがあった」
 ハクは未だに未練があるように家の方を見ていたが、ナヒトに頭を押さえられて無理矢理に向きを変えられる。
「じゃあな」
 ナヒトはハクを伴って歩き出す。その背中に和馬が深く頭を下げた。
 戸鄙村の出口に向かうにつれて、微かに聞こえていた川のせせらぎが聞こえなくなってゆく。
「ねえナヒト。彼岸花には毒があるってナヒトは言ってた」
「ああ」
「でもわたし平気だったよ」
「彼岸がこちら側と混ざっていたからだろう。もし対岸にあったのなら、お前でも多少は引っ張られたかもな」
「うーん……?」
「再会を祈られた花だ。きっとありがたく、毒は水で抜かれていたんだろう」
 正しく分かたれた彼岸を振り返ることなく、ナヒトとハクは自分たちの世界へと歩いた。

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